尖がりエンタメ批評〘ゲーム/アニメ/シネマ〙

好奇心で紡ぐエンタメ体験記

『フラッド 』 ——《その時》―誰もが敵となる!

没した町で現金強奪戦が勃発し、洪水と裏切りが交錯するサバイバル・アクション。


🎬 映画『フラッド』基本情報

(1998年/アメリカ)

■ 作品データ

  • 原題:Hard Rain
  • 公開
    • アメリカ:1998年1月16日
    • 日本:1998年9月5日
  • 上映時間:97分
  • 製作国:アメリカ合衆国
  • ジャンル:アクション/パニック(災害 × クライム)

■ スタッフ

  • 監督:ミカエル・サロモン(『アビス』『バックドラフト』の撮影監督として有名。本作が劇場映画監督デビュー)
  • 脚本:グレアム・ヨスト(『スピード』『ブロークン・アロー』)
  • 製作:マーク・ゴードン、イアン・ブライス、ゲイリー・レヴィンソン
  • 音楽:クリストファー・ヤング
  • 撮影:ピーター・メンジス・ジュニア
  • 編集:ポール・ハーシュ

■ 主なキャスト

  • クリスチャン・スレーター(トム/現金輸送車の警備員)
  • モーガン・フリーマン(ジム/強盗団のリーダー)
  • ミニー・ドライヴァー(カレン/町に残った女性)
  • ランディ・クエイド(マイク/保安官)
  • エド・アズナー(チャーリー/警備員の相棒)

■ 興行データ

  • 製作費:$70,000,000
  • 興行収入:$19,870,567
    (※Wikipedia掲載値)

🎬 辛口短評

記録的豪雨で冠水したインディアナ州の小さな町ハンティングバーグ。
住民が避難して無人となった町で、現金輸送車が立ち往生。
警備員トムは救助を求めるが、そこへ強盗団が襲撃。
大洪水の中、現金をめぐる攻防戦が繰り広げられる。

冒頭、豪雨の中を走る現金輸送車の描写や、町の住民が避難していく様子、ダムの放水と水位上昇のカットバックが映し出される。これらは「災害映画」としての導入としてはかなり優秀で、“この町は本当に水に飲まれる”という予感をしっかり作っている。
一方で、物語の主軸はあくまで「700万ドルの現金をめぐる奪い合い」であり、洪水は舞台装置として扱われることが多い。ここが長所でもあり短所でもあって、ただの銃撃戦ではなく、「水位が上がる」「電気がショートする」「ボートやジェットスキーが必要になる」など、シチュエーションが常に変化するところは良い。
しかし、住民の被災ドラマや、災害そのものの恐怖はほとんど掘り下げられないし、結局のところ、「人命より金」がテーマになりそうで、そこまで踏み込まない。
結果として、“災害映画の皮をかぶった、やや変則的なクライム・アクション”に落ち着いてしまっている。

そうはいっても、この映画の一番の売りは、やっぱり水そのものを使ったアクション。

代表的なシーンを挙げると、警察署の留置場が水没していくシーンでは、トムが拘束されている留置場に水がどんどん流れ込み、「溺れる前に脱出しなければならない」という、かなりプリミティブなサスペンスが成立している。
鍵・鉄格子・水位の上昇というシンプルな要素だけで緊張感を作れていて、ここは脚本と演出がうまく噛み合っている部分だと思う。

それ以外に、水没した街中をジェットスキーで走り回るシーンなど、企画書レベルでは最高に魅力的なアイデアが展開されるので、ぜひ鑑賞してほしい。

また、モーガン・フリーマンの存在感に脚本が助けられていると言っていいと思う。強盗団のリーダー・ジムは中盤以降、“完全な悪役ではない”方向に振られていく。この道徳的グラデーションはもっと掘り下げられたはずで、映画は最終的に「悪いのは腐敗した保安官、ジムはそこまで悪くない」くらいのところで止まってしまう。
ここをもう一段階踏み込んでいれば、作品全体の印象はかなり変わったと思う。
「金より命」とか「腐敗した権力 vs 相対的にマシな犯罪者」、あるいは「極限状況での選択」といったテーマの種はあるのに、どれも深掘りされないまま、アクションの消費材として流れていく印象が強い。

まとめると、『フラッド(Hard Rain)』は、「大洪水パニック」と「現金強奪クライム」を掛け合わせた高コンセプト映画だが、結果としてはアイデアとセットは一級、映画としてのまとまりは二級という印象が強い作品と言える。

★★☆☆☆