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『エルヴィス』——プレスリーの栄光と孤独

🎬 『エルヴィス』基本情報

バズ・ラーマン監督が、エルヴィス・プレスリーの栄光と孤独、そしてマネージャー“トム・パーカー大佐”との複雑な関係を、圧倒的な映像美と音楽で描いた伝記映画。
主演オースティン・バトラーは本作で世界的評価を獲得し、アカデミー賞主演男優賞にもノミネート。


📝 基本データ

  • 原題:Elvis
  • 公開年:2022年(日本公開:2022年7月1日)
  • 監督:バズ・ラーマン 
  • 脚本:バズ・ラーマン、サム・ブロメル、クレイグ・ピアース ほか 
  • 製作国:アメリカ/オーストラリア
  • ジャンル:伝記/音楽/ドラマ
  • 上映時間:159分 
  • 製作会社:ワーナー・ブラザース、Bazmark Films ほか 
  • 興行収入:全世界約2億8,600万ドル 

👥 主なキャスト

  • オースティン・バトラー:エルヴィス・プレスリー
  • トム・ハンクス:トム・パーカー大佐
  • オリヴィア・デヨング:プリシラ・プレスリー
  • ヘレン・トムソン:グラディス・プレスリー
  • リチャード・ロクスバーグ:ヴァーノン・プレスリー
  • ケルヴィン・ハリソン・Jr.:B.B.キング
  • アルトン・メイソン:リトル・リチャード

🏆 受賞・評価

  • 第95回アカデミー賞:作品賞・主演男優賞ほか 8部門ノミネート 
  • 第80回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)
    • 主演男優賞(オースティン・バトラー)受賞
    • 作品賞・監督賞ノミネート 

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🎬 からくち短評

この映画の最大の特徴であり弱点でもあるのが、物語が一貫して「トム・パーカー大佐の回想」として語られる構造。

ラスベガスのカジノで、点滴を引きずりながら徘徊するパーカーの姿から映画は始まる。ここで彼は「エルヴィスを殺したのは私ではない」と自己弁護を始める。
この時点で観客は、「これは加害者の自己正当化を含んだ物語だ」という前提を飲まされるわけだが、その割に映画全体ではパーカーの“自己弁護の醜さ”を徹底的に掘り下げきれてはいない。
また、エルヴィスが“主体”になりきれない構造が、この映画のウィークポイントになっている。例えば、エルヴィスが初めてラジオで注目される場面も、「パーカーがラジオで声を聞き、獲物を見つけたように目を光らせる」という“パーカーの発見”として描かれる。ここで映画は、エルヴィスの内面よりも「パーカーがどう利用価値を見出したか」を優先してしまう。結果として、エルヴィスはしばしば“観察される対象”に留まり、彼自身の視点から世界を見せるショットや時間が足りていない印象が強い。

ある意味、パーカーの“信用できない語り手”としての徹底不足と言えるかもしれない。
パーカーが自分を正当化する語り手であるなら、彼自身の正当化による記憶の改ざんというか、自分に都合のいい編集行為や、事実とのズレをもっと露骨に演出してもよかった。
しかし実際には、映画はかなり「史実ダイジェスト+パーカー悪役」という分かりやすい構図に落ち着いてしまい、“語りの構造そのものを批評する”レベルまでは踏み込めていない。

前半の「エルヴィスが怪物として誕生する瞬間」の描写は、ほぼ完璧に近い。
ハンク・スノウの前座ステージで、緊張で声が出ないエルヴィス。観客からヤジが飛ぶ。ここで一呼吸おいてからの『That’s All Right』。腰を振り始めた瞬間、女性客が悲鳴に近い歓声を上げ、会場が一気に“発情した群衆”のような熱狂に変わる。カメラは観客の顔、揺れる手、跳ねる身体を高速カットでつなぎ、「エルヴィスのパフォーマンスそのもの」よりも「それを浴びた観客の身体反応」を強調する。
ここがうまくて、エルヴィスの“危険性”は、彼自身ではなく、彼が社会に引き起こす反応にあるというテーマを、言葉ではなく映像で叩き込んでくる。
女性客の表情は、快楽と戸惑いと羞恥が混ざったような顔。それを見ている保守的な大人たちは、明らかに「これは社会秩序を壊す」と直感してしまっている。このシーンは、エルヴィスを「ロックの起爆剤」として描くうえで、ほぼ教科書的な完成度といえる。

前半のパートが良いだけに、本作の後半で失速してしまっているのは惜しい。特に、エルヴィスの母の死、黒人音楽との関係、名声と孤独からの薬物依存などが、イベントとしては描かれるが、「一つの心の流れ」として繋がりきっていない。エルヴィスの内面の連続性の薄さが惜しまれる。

★★☆☆☆